

Roots of tennen
私たちの服の始まり、川上を尋ねて
tennenのものづくりは、多くの日本企業の協力に支えられています。連載【Roots of tennen】では、日頃お世話になっている企業を訪ね、その道筋に光を当てることで、なぜ私たちが日本製にこだわるのかを読者のみなさんと共有していきます。
初回は“糸”をつくる紡績会社。創業130年超の老舗である「新内外綿株式会社」は、技術力・生産量ともに国内屈指。そしてサステナビリティへの共感から、tennenの製品づくりにも協力いただいています。
私たちの服づくりは糸づくりから。今回は新内外綿の関連会社である、岐阜県海津市の株式会社ナイガイテキスタイルを訪ね、糸がどのように生まれるのかを学びました。
►新内外綿に学ぶ、日本の紡績 PART2|繊維から糸へ。紡績の現場を追う
►新内外綿に学ぶ、日本の紡績 PART3|資源を活かす「反毛」という糸づくり
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ファッション業界の川上・川中・川下とは、原料から消費者に製品が届くまでのサプライチェーンを川の流れに例えた区分です。 川上は繊維や生地を生産する素材メーカー、川中はそれらの素材を元に企画・製造するアパレルメーカー、川下は商品を販売する小売店やECサイトなどを指します。
服づくりの流れを追うため、まず川上からご紹介するのが良いだろうと、今回は、tennenの服づくりにも関わっている紡績工場「ナイガイテキスタイル」に訪れ、工務課長の松本貴敬さんにインタビュー。製造現場をご紹介する前に、改めて新内外綿という紡績会社についてお話を伺いました。
※新内外綿はシキボウグループの中核企業で、糸の企画・開発・販売を担います。実際の紡績拠点は株式会社ナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)。両社が連携することで、設計→試作→量産まで一気通貫の体制を敷き、テンセル糸や杢糸、反毛原料を用いた再生糸まで幅広く対応しています。

ーーーまずは、新内外綿の創業背景や、時代とともに変化してきた取り組みなどについてお教えください。
新内外綿のルーツは、1887年に大阪で創業した「内外綿株式会社」です。はじめは綿花を扱う商社で、紡績は手がけていませんでしたが、1903年に工場を買収して自社で糸づくりを始めました。
その後は事業を拡大し、明治末には上海や大連、青島、国内に拠点を展開。最盛期には57万錘※従業員約2万人規模という、日本有数の綿紡績メーカーへ成長しました。
※紡績規模の単位。1錘(すい)=糸を巻き取る紡錘(スピンドル)1本分。
その後、戦中戦後の混乱で海外拠点は撤退を余儀なくされましたが、1948年に「新内外綿株式会社」として再スタート。以降も新素材に挑戦し、1991年には木材パルプ由来の再生繊維「テンセル」を用いた紡績糸を国内でいち早く手がけました。テンセル糸は現在も主力で、こちらの岐阜県駒野工場は約2万錘の工場となっています。
ーーーちなみに、現在の日本の紡績産業の規模はどのようになっていますか。
国内の紡績環境は年々厳しくなり、日本全体の設備規模は約10〜14万錘まで縮小しています。そのなかで新内外綿を含むシキボウグループは約4万錘で、国内では最大級の生産量です。
一方、中国全土では年間約1億錘以上生産されているといわれており、それと比べると日本の糸生産は1/1000程度となっているのが現状なんです。それでも私たちは、日本で培われた紡績技術と品質を守り、可能な限り国内で糸をつくり続ける。その姿勢は変わりません。

ーーー様々な繊維を扱う中で、得意な技術や特長は?
強みをひとことで言うと、「色・形・素材を三方向から設計できる紡績力」といったところでしょうか。目的に合わせて配合や条件を細かく詰め、狙った表情を安定して出せる技術を培ってみました。素材を“どんな糸”にするかは、紡績会社の腕の見せ所。私たちは三つの要素の掛け合わせで、品質に奥行きを与えています。

① 色状変化糸
元となる27色のカラーパレットから調合して、狙いの色調や杢感を作れます。この工程によりトップミックスや後染め杢など、見た瞬間にわかる個性も設計できます。
② 形状変化糸
ネップやスラブなどの太さ・間隔をデータで制御し、自然なムラから強い表情まで再現可能。リサイクル原料を使ったアプローチにも対応します。
③ 複合糸
綿・ウール・麻・シルク・合繊など、狙いの混率でブレンド。肌当たりや強度、吸湿性など「機能と風合い」のバランス設計が得意です。
「このトーンで杢感を」「少しだけ表情を足したい」「この素材をミックスしたい」などの要望に応えながら、番手は約7〜100番手まで幅広く対応。設計自由度の高さが、新内外綿の強みです。

ーーー業界では、杢糸といえば新内外綿といわれるほどになっています。どうして杢糸に注力したのでしょうか?

1970年頃、当社の1人の開発担当者がアメリカの市場視察研修に訪れました。その際にふと見かけた、杢調のスウェットやムラ杢のTシャツ。独特な風合いに、思わず惹きつけられたそうです。さっそく日本でも開発を始めたのですが、その過程で杢糸の持つ高い可能性が見えてきたんです。
第一はエコであること。通常の染色の5~50%の染めで表情が出るため、コストが下がり、環境配慮、サステナビリティにも繋がることが分かりました。第二にオリジナリティを創出できること。糸の番手・色目・混ぜ方で、唯一無二の商品が生まれることは、メーカーや消費者にとっても価値になります。
こうして技術も磨かれ、グレー杢糸「GR7(ジーアールセブン)」業界では知らない人はいない。日本の“杢グレー”の基準として、多くのブランドに採用されてきました。
ーーーMOKUTYというシリーズを筆頭に、杢糸の製造は日本のファッションを陰で支えていますよね。
とりわけ日本のアパレルは、僅かな濃淡差や霜降り感といった“繊細な杢”に強いこだわりがあります。そのリクエストに応えるには、配合設計・染色管理・紡績条件を読み解く経験値と、再現性を担保する設備・品質管理という技術の裏付けが不可欠。
私たちは設計から試作、量産まで一気通貫でチューニングできる体制を築き、その細やかな表現を当たり前の水準で実現してきました。

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今回の記事では、新内外綿の歴史と「色・形・素材」を三方向から設計する強み、そして杢糸のみならずさまざまな種類の高品質な糸で日本のアパレルを支えてきた背景を概観しました。
次回は、ナイガイテキスタイルの工場内部を見せていただいたレポート記事。混打綿から精紡・巻取りまでの工程を追いながら、表情を決める要因と再現性を支える技術力に焦点を当てます。
